パネルディスカッション「小舟木エコ村から提案する環境共生」
◎パネリスト
- 林 昭男(滋賀県立大学名誉教授)
- 若井郁次郎(大阪産業大学教授)
- 花田眞理子(大阪産業大学助教授)
- 藤田 知丈(エコ村居住希望者)
- コーディネーター 仁連孝昭
(1) 4つのワークショップからの報告
若井:水ワークショップ
- ガガーリンの「地球は青かった」の言葉に示されるように、地球は水の惑星である。その地球が少し病気になっている、少しというより重症。世界中で多くの人が水不足のために死んでいる。
- 水は身近にあるもの、けれども粗末にしている。水は気体、液体、固体の状態に変化し、地球上を完全に循環している。世界中が水でつながっていると認識することが大切と考える。
- 地域的に見てみても、琵琶湖の水の大きなサイクルがおかしくなってきている。道路は舗装され、雨水は一気に下水道や河川に流れ込む。
- 20世紀はスピードの時代である。水は天からの授かりものではなく、浄水場で人がつくるものになった。我々はほとんど水を見ることなく、単なる生活の手段として使ってきたという反省点が出てきた。
- 近年では、ゴミは積極的に分別して回収されるようになってきている。それは人間が作り出した物質は人間の力でリサイクルしようという強い意思があるから。一方、水は蛇口から出て、調理も、洗濯も、風呂も、トイレも全て一つに集めて、はやく家庭から押し流している。それが本当に人の生活を幸せにしているかどうかはわからない。そこが水ワークショップの出発点であった。
- 水の健全な循環を取り戻す。中水(グレーウォーター)の使い方を考える。
- 水道の水は非常に高価な水なので口に入るもののみに使う。トイレは不快感のないものであれば十分。そうした用途に合った水を使うことをエコ村で実現する。
- 上下水のシステムと接続しないことも考えた。しかし、今、現実的には難しい面もあるので、上下水道を使いながら、未来への実験を行う。
- 水を分別し処理し、もう一度生活の中で使う。
- 雨水を溜めて使う。
- 水をゆっくり流す、その過程で自然の力で浄化する。地下水を涵養する。
- 微気候で暑さを緩和する。
- 泥汚をエコ村の菜園で使う。
- パイロット・プロジェクトとして環境共生型の技術で汚水を処理する区域をつくる。
花田:エネルギーワークショップ
エネルギーワークショップは、エコ村の暮らしの中で、環境共生型の技術でエネルギーに関する問題にどのように取り組むかをテーマに行ってきた。
- エネルギー源の模索
太陽光、太陽熱、風力などの自然エネルギー
木質、産業廃棄物、家畜糞などの未利用エネルギー
燃料電池のような新エネルギー
- ライフスタイル・エネルギーの利用スタイルの見直し
住む人、企業、NPO、研究者などが生活、活動の中で使っているエネルギーの収支を計測し、ライフスタイルやコミュニティ生活、活動を常に見直しながら、持続的に改善をする。
エコ村の目標
環境効率=パフォーマンス・利用価値・質負荷
パフォーマンスを2倍にし、負荷を半分にするとFactor4が実現する。
エコ村ではCO2排出量4分の1の目標を掲げているので、Factor8を実現することを目指している。
- 電気、熱、動力エネルギー、いずれにしてもその源は化石燃料に頼らない。
- 熱は熱で利用するのが一番効率良い。例えば太陽光でお湯を沸かす。
- 少しのエネルギーで生活する。
- 省エネ効率の高い機器、ヒートポンプなど高効率エネルギー利用機器の導入。
- 昔の工夫を取り入れながら、生活の工夫を。
- 周りの自然を利用する。建物の入口と出口に温度差をつけると空気が流れる。京都の町屋はその一つの事例である。自然の光を間接的に取り入れる。
- 自然の素材(呼吸する素材)を使うことで温度調節をする。
- 建物の周りに緑を配置する。
- ビオトープ、周辺の山などを視点に入れた微気候の調節→村全体の設計が大きな役割を果たす。
- 各戸でできること、コミュニティでできること、全体でできること、カスケード的にシステムを組み立てる。
- エネルギーは地産池消、分散型がベター。里山の木質バイオマスを利用する、大中の牛糞からバイオガスをとるなど地域の特徴を生かすことも大事である。
- 全体のエネルギー必要量の総量を利用サイドから設定する。
- コミュニティごとに異なるエネルギー源を利用して、比較検討していくことも考えている。
- 次世代エネルギー・新しいエネルギー源を積極的に利用していく。また、供給サイドだけでなく、利用形態についても新しいやり方を進んで実践し、それが生活質の改善に結びつけられるかを考えていく。
林:住環境ワークショップ
- テキスト「環境共生住宅」を元に議論してきた。目標は、暮らしが環境に負荷を与えないこと、環境と親和性を持った住宅にすること、安全で快適な暮らしを実現すること。
- 個人的に建築と環境のつながりを考え始めたのは、ほんの10年ほど前のこと。建築が、建てる・使う・壊す、というその一生の中で周囲に与える影響を考えるようになった。世の中の流れも、同じような方向に大きく転換している。
- 一気に解決するのではなく、少しずつ取り組んでいくことが問われている。
- 環境にやさしいライフスタイルが流行している。そういう暮らしをしていると似た者が自然に集まってくる。全国的にエコ村のような暮らし方を求めている人々も増えてきているように思う。小舟木は、そうした個々に暮らしの実験をしてきた人たちがつながり、総合的な暮らしのモデルをつくる場所だと考えている。
- エコ村づくりは小舟木だけではない。他の地域、自分の家、全ての場所がエコ村の細胞のようなもの、基本的な考え方をそれぞれに受け止めて、実践してほしい。
- 滋賀県にはエコ村になりそうな土地、里山と一体になったすばらしい地域がたくさんある。
藤田:生活者ワークショップ
環境と共生する暮らしがしたい。
エコ村にはどのような人が住むのかを住みたい者の意見として自由に述べる。
・ エコ村の生活・・・100%自給自足の村・昔に戻る生活・ヨーロッパの真似事のエコビレッジ・超ハイテクワールド?→そのどれもがYesで、どれもがNo。エコ村の傍観者になっている限り、答えは見えてこない。
・ 自分の考えるエコ村とは?
- ディベロッパーやプランナーがデザインするのではなく、住人が自考自築、自分達でつくり育てる村
- 家族や住区単位で各々のテーマを持って、各々にあった多様なエコ・ライフを自立的に楽しみながら追求していく村
- 楽しみを分かち合うため、知恵を集積し、世界中へ発信、共有する場所になる
・ 私個人のテーマ
- 現在は、仕事、生活、遊び、NPO活動(社会貢献)が分断化された暮らしからすべてが生活と接点をもつ、生活中心の暮らしへ。
- 健康への漠然とした不安;今食べているものは安全か、住宅の塗料等でじんましんがでる、子供に簡単に抗生物質を処方する医者、買い物に行くと全て「抗菌コート」、川は危ない・汚いという生活から身土不二(体と環境は不可分)へその土地で採れた旬のものを食べる、それが一番省エネで、健康で安全。家族の健康から地域環境を見直す。
- 100年後に残したいもの
琵琶湖とその流域を元気にして残す。単に汚さないと言うのではなく、エコ村があることで周りが良くなっていく。川辺を森に、生き物との共生の場に、コミュニティ全体を林のように。
- インターネットの電子会議で「こんなところに住みたい」を話し合った。その中から生まれた一つの提案として、縁側コミュニティのような住み方が出てきた。ここでは家を5軒分つなげることで、敷地に自由度が出る。仲間が集ってやっていきたい。エコ村は仲間集めの場だと考えている。
(2) ディスカッション
会場参加者の方から以下のような提案や意見が出され、活発な意見交換がおこなわれました。
- 国際シンポジウムで、ベルナルド・リエター氏が、「陽の経済だけでなく、陰の経済も必要」とおっしゃっていた。ファクター4、win-winの関係などあるが、プラスの価値観だけでよいのか。
共存共栄とあるが、他の生物も考えると、「共存共貧」であるべきではないか?
江戸時代は理想的だった、しかし以前には戻れない、と言う話になるが、果たして前に進むだけでよいのか?
「人間と生命に親和しない化学物質を適正に利用し」とあるが、これは一つの大きな選択。環境リスク論で、「逃れることができないから、どれを選ぶか」という選択をしたということか。
- シックハウス解消のための竹炭の微粉ボード。鹿児島の孟宗竹。湿気が吸着されて良い。
八幡瓦のかまが二つ残っているから、近江八幡産の竹を使ってつくることができる。
「日本の木で家を建てよう」と言う運動もしている。
水道の蛇口にも竹炭、雨水も竹炭でクリーンにして利用、農薬除去なども10年後くらいにはできる。
- 「戻る」と言うことにマイナスイメージがつく。
今後日本では確実に需要は減るし、少子高齢化する。しかし、動的な定常社会、伸びないけれど豊かになっていく、というやり方がある。お金や物質以外のものが増えることも、「栄える」の一つと捉えると、共存共栄もありえるのでは。これからの社会では、経済成長の中身が違っていくのだろう。
- 希少物質、有害物質などをうまく管理できないシステムの中で使っているのが問題。抗生物質がやたらに簡単に処方されると言う話も聞く。使うのであれば、回収できる仕組みを持つべきである。
リエター氏は、「貨幣の表が経済なら、社会は裏。両方健全でないとだめ」と言う意味でおっしゃっていた。環境に対する負荷をできるだけ減らして、人間的な価値を求める。
- 「共存共豊」というのはいかがでしょうね?
コミュニティ・ビジネスは地域の課題、問題を解決することをビジネスにする。Keyはネットワーク、コミュニティ通貨などで、周りとネットワークすることが必要なのではないか。なので、表のなかでコミュニティ・ビジネスが点線で囲まれている(エコ村の中でできることに分類されている)のが気になった。
- ビオトープだが、どのような仕掛けや装置を考えているか。たくさんの緑が必要だろうが、そこでは鳥も害虫も出るだろう。ビオトープと周辺農業との関係はどうお考えか?
それから、水は、上水を利用するのか、それとも地下水を使うのか。
- 国産材を使ってほしいと言う声があった。コモンズもたくさん配置している。そうした場合、住宅の単価が上がってしまうのではないかと懸念している。小舟木は特別な地域だから、補助金などで対応できるかも知れない。しかし、今後その他の場所にできるエコ村は、日本全国の金持ちが暮らす場所になるのか?
地域通貨はエコ村の中だけでしか使えないのか?地域通貨をためて、エコ村で家を買うときの足しにする、と言うことは可能だろうか。
- 上水道は利用する。地下水は副として利用する、水の供給がストップしたときなどに役立つだろう。地下水については水質に関して調査が必要だろう。近年、微生物を用いてシンプルに浄化する技術も見直されている。ビオトープは生きものが生活していける空間、雨水の貯留場所にもなる。農業との関係に関しては、エアポケットだったか。
- 自然の生態系を利用した暮らしをする。多様な植物が生息するため、害虫がいれば、害虫を食べる虫も出るだろう。害虫となる一種が優占することはあまり考えられない。実験しながら、一つずつ対応していく。
公共の補助金に関しては、当てにせずに計画を立てている。もちろん、いただけるものは検討していくが前提とはしていない。確かに、エコ村での取り組みはコストに跳ね返る。規制を緩和することで、コストをできるだけ減らしながら、効率を上げていく。価格帯などは、まだ決定に至っていない。
小舟木エコ村から提案する環境共生について熱心な議論が交わされました。 |