これまでの活動 2006年度

講演会
持続可能なくらしと社会
地域で健康を創る -人生80年時代の生活-

日 時 2006年9月8日(金) 14:00-14:50
場 所 コラボしが21(大津市)
参加者 25名
主 催 西尾久美子
(NPO法人エコ村ネットワーキング副理事長、
神戸大学大学院経営学研究科助手)

なぜ、京都の花街なのか

なぜ、今、京都の花街に注目するのかと申しますと、豊臣秀吉以来400年以上の歴史を持つ伝統産業であり、東京や大阪など他の地域の花街のほとんどが競争力を失い寂れている中で、唯一、世界的な知名度と競争力を保ち続けているという点が挙げられます。また、全国各地から芸舞妓希望の少女たちが、未来へつながる意欲や希望を持って、毎年、京都の花街にやって来ている点にも注目しています。1995~2006年の10年間、バブルがはじけてもなお、京都の花街の芸舞妓の数はほぼ横ばいで、一定の規模を維持しているのです。
京都の花街は、その独自性を保ちながら、外部の変化に対応できる「何か」を持っています。これを考えることは、コミュニティの持続可能性を考える上で非常に役に立つと考えられます。

世代を超えた人材育成

京都の花街では、伝統文化技能についてはほとんど未経験の少女たちが、約1年間で芸舞妓としてデビューしていきます。人材の育成には、立場の異なる複数の関係者が関わります。まず、置屋さん。舞妓さんが所属するお店です。ここにはお母さんとお姉さんが居て、新人と疑似家族関係を結び、作法や芸、あらゆることを教えます。ここでの「仕込み」の期間は1年程度です。その期間が終了すると、お茶屋さんでの「見習い」が始まります。ここでは、お茶屋さんのお母さん、お座敷で一緒に働く先輩の芸舞妓さん、お客様までもが教育に関わります。
京都の花街には学校があります。芸舞妓は、現役である限り、この学校に所属し続けます。学校で稽古をつけてもらうには順番があり、若手は、先輩に順番を譲らなければなりません。若手はじっと座って順番を待ちながら、先輩の稽古の様子を見、それを続けることによって芸を身につけていきます。

なぜ、一見さんお断りなのか

京都の花街には、「一見(いちげん)さんお断り」のしくみがあります。お茶屋を利用している紹介者がいなければ、お店を利用することができません。紹介者に連れられてお座敷に行き、お茶屋からOKが出て初めて、その後、顧客となることができます。これは、お店がお客様を選ぶ、ということです。信用のある人しか入れません。
また、お客様になっていただいた後も、花街のルールを教えるなど、お客様を教育するしくみがあります。花街のルールが守れない、きれいな遊びができないと、やんわりと花街から締め出されます。お客様は、花街の業、おもてなしを支えるコミュニティの一員です。関係者は、お客様の質の維持が「花街らしさ」の維持につながり、業界がずっと続いていくために大事なことを心得ています。

仕組みと文化

京都の花街は、コミュニティ内部の緊密な情報収集と共有のしくみの上に成り立っています。あるお茶屋さんでの出来事は、翌日中には同じ花街中に、3日後には京都にある5つの花街全体に知れ渡っているという程、情報の伝達は早いのです。情報の伝達には、お茶屋や置屋が大きな役割を果たします。評判についても同様で、顧客満足、芸舞妓の評判、料理屋の評判、出入り業者の評判は、複数の花街の関係性のネットワークから収集され、取引に反映されます。

コミュニティの維持

最後にコミュニティの維持に深く関わる、芸舞妓の評価についてお話しします。芸舞妓の評価は、複数の観点から行われます。まず、売上評価。毎年、番付が発表されます。芸舞妓は完全能力主義なのです。続いて、技能評価、座持ちの評価があります。さらに、育成者としての評価もあります。こうした複数の評価を通して、コミュニティメンバー全体の人材育成がなされ、長期的な花街の存続につながっています。

西尾久美子
・NPO法人エコ村ネットワーキング副理事長
・神戸大学大学院経営学研究科助手

記録:(株)地球の芽 西山さん