これまでの活動 2006年度

エコ村シンポジウム
エコ村がめざす脱温暖化社会

日 時 2006年3月25日(土) 13:00-16:00
場 所 グリーンホテル近江八幡
参加者 74名
主 催 小舟木エコ村推進協議会

1.基調講演 「脱温暖化社会のエネルギー戦略」

槌屋治紀氏(株式会社システム技術研究所代表取締役)

地球温暖化の歴史

地球温暖化現象については100年以上も前にイギリスで予言されながらも、その原因となる二酸化炭素濃度の調査は長らく行われていませんでした。1958年からハワイのマウナロアで大気中の二酸化炭素濃度の測定が開始され、科学的に気温上昇と二酸化炭素濃度に相関があることが示されました。
地球温暖化が政治レベルで大きく取り上げられたのは、アメリカ上院エネルギーセンター委員会のJ・ハンセン氏が、ワシントンが史上最高気温を記録した1988年6月23日に「私は99%の確率で地球温暖化が起きていると思う。」と発言したことがきっかけでした。この時より世界各国が地球温暖化を認識し、気候変動枠組条約(いわゆるCOP)へとつながります。その中でも京都議定書は、史上初めて人類の活動に対して制約を掲げたと言う点で画期的だと言えるでしょう。
日本の二酸化炭素排出量は1990年に比べてすでに8%増加しています。京都議定書に定められた-6%を達成するためには、今より約14%の削減が必要になります。京都議定書が対象としている2008年から2012年において、日本政府はどういった政策を行うかが議論されています。一方、京都議定書では2010年までしか制約がかけられていないので、それ以降に発展途上国を含めた新たな展開についても議論していかないとけません。アメリカが参入することは必須だとして、さらに発展途上国との関わりが課題となるでしょう。

エネルギー利用効率の向上

二酸化炭素排出量を削減するためのアプローチは様々ですが、エネルギーの利用効率はこれらの組み合わせで考えられます。デンマーク工科大学のノルガー博士によると社会全体のエネルギー効率は以下の式で求められます。

(エネルギー利用効率)=
エネルギー機器効率(燃費効率・エンジンの動力効率)×社会システム効率(税制・建築規制・安全基準)×ライフスタイル効率(価値観・流行・教育)

これまでエネルギー機器効率については研究が進んでおり、例えば10年前の電気冷蔵庫は買い換えた方が経済的にもメリットが出るほどの省エネ技術が進んでいます。他にも電球型蛍光灯やハイブリッドカーの技術も開発されています。

再生可能エネルギーの開発

ヨーロッパでは経済性があると認められ普及している風力発電ですが、日本には設置場所がなくなってきています。一方、太陽からは電気を作り出すことができますが、現状では投資資金の回収に20年もかかります。しかしながら今後生産量が増大するにつれて、太陽光電池の価格は下がり続けるでしょう。風力発電の設置は用地に様々な制限がかけられますが、太陽光発電を設置するための場所は無限と言えるほど残されていると思います。
また、電力供給源と需要源が離れている場合には、グリーン電力の利用も推し進めていくのがよいと思います。

ライフスタイルの問題

1970年代の研究で、「まったく同じ建物に住む同じ家族構成の住人のエネルギー消費が2倍も異なっていた」との報告がなされました。このことからも、エネルギー効率はライフスタイルに大きな影響を受けることがわかります。自動車の大型化や待機電力がその例として挙げられます。年間電気代約10万円のうち、1万円は待機電力として消耗しており、このエネルギーは”ご主人からの命令をただ待つ”ためだけに利用されているのです。

2050年低炭素社会シナリオ

持続可能な発展をするためには、資源やエネルギーの再生速度が消費速度よりも速い必要があります。そのために、エイモリー・ロビンスが「ソフト・エネルギー・パス路線」を提唱しています。需要に合わせて原子力、石油、石炭の消費量を増やしていくというハード・エネルギー・パスではなく、効率を上げてエネルギー需要量を減らしつつ残された需要を再生可能エネルギーで供給するという社会システムです。化石資源に頼りきったエネルギー狩猟型文明から、太陽のエネルギーを利用したエネルギー耕作型文明への転換が必要なのです。

最後に

地球上では化石燃料の燃焼によって、年間240億トンの二酸化炭素を排出しています。それに対して、人類65億人が呼吸によって排出する二酸化炭素は24億トンです。このことは、「世界の人々がひとりあたり10人分のエネルギーという名の奴隷を持っている」と言い換えることができます。このような文明のあり方について考えていかなければならないと考えています。

エコ村ワークショップ

エコ村がめざす脱温暖化社会
日 時 2006年3月25日(土) 13:00-16:00
場 所 グリーンホテル近江八幡
参加者 74名
主 催 小舟木エコ村推進協議会

2.基調講演 「自ら選びとるエネルギー社会の姿

飯田哲也氏(NPO法人環境エネルギー政策研究所代表)

はじめに

私のキャリアの出発は永田町を中心として原子力政策に関わった10年間です。そこでは、エネルギー政策が技術だけでなく、政治的な要素も含めてできあがっているのだと実感しました。そこで、退職して北欧に渡り、ヨーロッパの政策を学びながら政治と社会とを結びつけることの重要性を実感したのです。
日本では政治というとカネをつけることだと認識されていますが、そうではありません。仕組みをどのようにして作っているのかが重要なのです。日本の政治はコールタールに例えられていて、非常に動きづらい。日本のエネルギー未来シナリオは、そのコールタールの上にある空気層のように、賛成派・反対派それぞれに根拠のない夢のような話で議論しています。これではコールタールは動かない。もっと地に足のついた市民レベルから積み上げていかないといけないと考えています。

自然エネルギーに対する論調は10年単位で変わってきています。
70年代は石油ショックをきっかけにして、先進諸国が原子力という夢のエネルギー利用があるのだというブラフをかけることによって、APECに対する圧力をかけたという政治的な背景がありました。しかし市民レベルにおいては、反原子力として自然エネルギーが挙げられたのです。この2軸の中、ヨーロッパ諸国は民主主義によって、エネルギー政策を決定していったという歴史を持っています。
80年代までに4度の石油ショックを経て、石油代替エネルギーの必要性が認識されてきました。また、先ほどの槌屋氏の講演にもあったように1988年の「アメリカの暑い夏」を受けて、国際政治における議題となり始めます。
90年代になり、気候変動への対策と同時に国家におけるエネルギーセキュリティが要求され始めました。特にアメリカが石油の確保にかかりました。それに対してヨーロッパは、自然エネルギーによる自家生産という政策を歩み始めたのです。

自然エネルギーの市場構造

自然エネルギーの利用を中心とした社会システムに転換していくためには、4つの観点からの取り組みが必要です。それは政策による規制、経済、金融と技術、そして地域社会、市民社会です。国や産業界が主導してきた技術プル型のエネルギー政策から、社会プル型の地域発エネルギー政策が必要となってきます。
現在のエネルギー政策はエネルギー供給者によって、自分達の産業のために作られています。本来は、需要側をいかにグリーンにしていくのか、という観点から戦略を作り上げてそれを形にするべくエネルギー供給者が技術・資金を投下しなければなりません。例えば、1997年のヨハネスブルクサミットで自然エネルギー利用の数値目標を設定するべきだという議論においても、アメリカ・日本・オーストラリア・石油産出国が反対をしました。これらの国々は、石油産業が作った政策に引きずられて太陽熱温水器が激減しています。そして数少ない太陽熱給湯器もユーザーを無視した途上国型を利用している、それがゆえに使われないという悪循環が起こっているのです。

エネルギー政策を産業マインドから、市民マインドへ

近日中に、東京都が2020年までに自然エネルギーを20%導入することを日欧同時で発表します。ポイントは、政治的なコミットメントを掲げそこから出発する社会的メカニズムを含めていること、エネルギーを市民決定していくことが定められています。デンマークでは国内に22ヶ所のエネルギー事務所が設置されています。日本でも地域発でエネルギーについて考え、そして決定していく機運が必要だと考えます。

3.紹介 「小舟木エコ村の自前エネルギー計画」

仁連孝昭(滋賀県立大学教授|エコ村ネットワーキング理事長)

持続可能性を実現するために”主体的な持続可能な社会”と”客体的な持続可能な社会”の両方があります。エコ村では双方に取り組んでいきたい。フィジカルな意味だけではなく、人々がよいと感じ、次世代に引き継ごうと感じることができる生活を実現したいと思います。
エネルギーを通じて得ることができるプラスを大きくしながら、マイナスを小さくしていく仕組みづくりが必要となるでしょう。エネルギー利用を考える需要と供給をバラバラに考えた対策は比較的簡単に行うことができ、これまではこうした対症療法でした。しかしながら、需要と供給を同時に動かすパラダイムチェンジができれば大きな効果が得られると考えられます。

4.パネルディスカッション

山口勝洋氏((株)自然エネルギー.コム取締役)、
槌屋治紀氏、飯田哲也氏、仁連孝昭 (以下、敬称略)

仁連
まずは、山口さんに自己紹介をいただきたいと思います。

山口
私の関わっている自然エネルギー.コムは、持続可能なエネルギーの実現をしていく 会社です。一つでも二つでもよいので、ビジネスとして回るということを示すことができれば、 風穴が開けられるのではないか、と考えています。第1号として長野で、太陽光発電と省エネ の事業化が始まっていますし、第2号として、備前で地域エネルギー事業へとつながってきて います。
実際に事業を進めるためには、環境的な理念はよいが、お金の面でクリアしないことには止 まってしまいます。そこをどう解決するか、また同時に「いいものにはお金を支払う」がそれ をいかに伝えていくかを提案していくことが主要な事業です。
今回は備前エネルギー事業のパンフレットを持ってきました。私たちの事業は、環境負荷を 減らしたいと考えているユーザーが持っている潜在需要を掘り出して、その人たちに代わって コストダウンを図っていくことで付加価値を生み出していきます。事業を推進していくために は、それを応援してくれる資金があることが重要。通常の金利設定では採算が合わない事業に 対して、自然エネルギーはいいことだから自分の資産を預けてみようという潜在的な個人投資 家を探し出して、安価な資金を利用することができます。
エコ村は新築で作る、というところに大きな可能性があると考えています。既存住宅の改修 で行うことには限界があるからです。住まう人にとって、ファイナンスも、快適性も同時に利 益を享受できるようなサービスの提供が考えられます。エコ村に住まわれる方は環境意識が高 いと予想されるので、そういった方々が自己主張、充足感として感じられるのではないかと期 待しています。

飯田
エネルギーの流れというのはお金と表裏一体です。電力会社の売り上げは全国で15 兆円、ガスなど入れると30兆円。これを人口1万人の都市で考えると30億円規模の市場を生 み出す余地があると考えられます。
現状としてエネルギーの功罪があり、それに対して将来のビジョンがあります。現実とフィ クションの間で、実現力を持ったビジョンを作り上げる必要があるのです。この際には技術的、 資金的、政治的、3つの領域すべてを考慮しないといけません。
小舟木エコ村はこれから作られていくのだから、近未来のビジョンを描かなければいけませ ん。無から有を作り出す、これは雲のようなもの。この雲をもとにして多くの人々を巻き込ん でいって、志をともにしていく人とともに構造を固めていきます。構造が固まったら事業とし て形作って、最後に契約やお金の流れといったデリバリーを段階的に積み上げていく。
エコ村に必要なのはディープフロッキング(蛙飛び)。具体的には住宅単体で進めるのか、面 的に捉えていくのかの検討があります。例えばデンマークでは住民の福祉という観点から、100 年以上前から地域熱政策がとられています。その当時は(政治的には)地球温暖化という視点 は含まれていなかったのです。まずは十分な熱供給を行うための技術および制度が更新されて、 その過程の中で、高断熱住宅が設計されてきて暖房が必要ない住宅もできてきました。この段 階になって、一定の熱需要が必要な熱供給事業と熱需要を不要とする高断熱住宅との間に矛盾 が発生しました。この矛盾を解決するための新たな展開としてバイオマスが生まれてきました。
北欧の熱供給の歴史には学ぶところが大きい。古い住宅には熱供給を行うが、これから作ら れる新しい住宅には高断熱による無暖房住宅を提案したいと思っています。

槌屋
エイモリー・ロビンスの研究所は外部がマイナス20度にもなるが、建物全体がパッシブで、中が植物園のようになっている。また、建物の中の圧力もコントロールすることで外からの空気が入ってこないようにしている。建造時においても学生ボランティアで作っている。
エコ村は、ショールーム的な側面を持って、新しい技術を体感できるのではないでしょうか。 意識の高い人たちが実際に暮らしていく中で、新たな問題を発見していく実験場です。または、 研究所として、同様の取り組みを進めたい人たちに情報を提供することができるのではないで しょうか。今後、現実として二酸化炭素排出に向けた政策がとられていくだろうが、その先駆 けとして事例を見せられるようになったらよいのではないでしょうか。

仁連
それでは、会場からご意見のある方はいらっしゃいますか。

質問1
飯田さんに質問があります。日本政府は排出量規制のために原子力発電が必要と言っ ていますし、東大の先生が言っているが、原子力については今後50年間国民の合意を得ながら 進めていく必要があるだろうと発言していました。これに対するご意見を伺えますか。

飯田
期間を限定して原子力を利用していくというシナリオはよいのではないか、ただしそ の期間については市民の合意を得ながら進めていく必要があると思います。持続可能な社会と は物理的にいえば、再生可能なエネルギーを持続可能なペースで利用していくこと。社会的に いえば、経済的・社会的不平等をどのように解決していくのかということであり、分散型利用 をすすめていくこと。今すぐ石炭をやめること、原子力をやめることは難しい。大きなビジョ ンの中で、小さな取り組みをすすめていくことが大事だと考えます。
これに加えて経済原則があります。炭素税と核廃棄物、さらにはカタストロフィーを経済原 則の中に加えて社会コストを加えなければいけません。原子力のかかえるリスクを電気料金に 上乗せすると、現在の電力価格が3倍になる、と言われています。こういった社会的費用の内 部化が行われれば、環境と経済の折り合いがつきます。しかしながら、政治的な圧力によって、 価格が抑制されている。前向きなチャレンジのひとつにエコ村があるのではないでしょうか。

質問2
近江八幡市で市民出資をすすめるためのアドバイスをいただけますか。

山口
出資をする人は事業を応援してお金を出してくれます。そのためにも、応援する意義 が何なのかを打ち出す必要があります。「こういうモデル性があって、先にやります。これを参 考にして社会にどんどん広げていこう」と打ち出す必要があるのです。同時にお金を集めるた めには、リアルに厳しい視点で事業のキャッシュフローをくみ上げないといけません。投資信 託などで使われている金融スキームを考慮して洗練した経済性を提案する必要があります。危 うい事業計画は、伝わってしまいますから。ここまで固めれば、社会的にも認知されるし、出 資を集めることもできる。出資者に尋ねたところ、公募事業を知ったのは新聞記事が多数でし た。飯田市の場合には出資額の1割が県内、9割が県外からです。

仁連
みなさんありがとうございました。

記録:(株)地球の芽 高階さん 白石さん
編集:エコ村ネットワーキング